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本音と建前
「よう、生きてるか?」
 ホタルの姿を見たナルトはあからさまに嫌な顔をした。
 見なかったことにするかのように、すぐさま手元の紙束に視線を戻す。
「久々に親友が訪ねてきたってのに、その反応は切ねーなあ」
「ワタシは今、忙しいんです。お引き取りください」
「しっかし、相変わらず小汚い部屋だな」
 ナルトの言葉には耳を貸さず、ホタルは床に散乱した物を避けながらナルトに近づいてくる。
「たまには部屋の片づけでもしたらどうだ?」
「ワタシには何が何処にあるのか分かっていますから。問題ありません」
「そうじゃねーよ。息苦しいとか思わねーの?」
「むしろ雑然としていた方が落ち着くタチなので」
「つーかお前、籠もって何日目?」
 ナルトの元にたどり着いたホタルが、紙束を隠すように身を乗り出す。
 ナルトの不機嫌そうな顔がますます不機嫌さを増した。
「……邪魔です」
「まあ、邪魔してるからな」
「始めに言ったでしょう。ワタシは忙しいんです」
「大きな研究は一通りカタがついたって女中さんに聞いたぞ」
「それとこれとは別です。ともかく、退いてください」
「嫌だって言ったら?」
「殴りますよ」
「とか言いつつ、殴られたことないけどな」
 ホタルがナルトの手から紙束を取り上げる。
「貴方って人はいつもいつも…どれだけワタシの邪魔をすれば気が済むんですか!」
「俺はお前のためを思ってこうして訪ねてきてやってるんだぞ」
「良いから返しなさい! 返せ!!」
 紙束を取り返そうと伸ばされるナルトの手をホタルはひらりとかわす。
 中身をちらりと見てみるが、何かの論文なのか内容はさっぱり分からない。丸で呪文のような数式が羅列されているばかりだ。
「お前、これ何が書いてあるのか分かるのか?」
「馬鹿にしないでください。当然です」
「へえ…やっぱりお前ってすごいな」
「……ええ、まあ」
 突然の褒め言葉にナルトの動きが止まる。そして、観念したように伸ばした手を引っ込めた。
「全く、貴方には適いませんよ。貴方の言葉は真っ直ぐすぎる」
「俺はいつだって素直だからな」
「素直というか、一番嫌なタイミングを分かっているという方が正しいですね」
「そうか、お前は俺に喧嘩を売っているのか」
「それは貴方の方でしょうに」
 渋々といった風にナルトが立ち上がる。手渡された紙束を机上に置くと、大きく伸びをした。
「ずっと籠もってりゃ身体も鈍んだろ? 何なら俺がマッサージしてやるけど?」
「……遠慮します」
 ホタルがそうして入ってきたように、ナルトも床に散乱した物を避けながら扉へと向かう。
 自分で言っていたように慣れたものなのか、足取りに迷いはない。ホタルも少し眉をひそめながらも後に続く。
「ま、でもまずは風呂だな」
「失礼ですね。風呂は五月蠅いのがいるのできちんと入ってますよ」
「お前の行水は入ったうちに入らねえぞ」
 ナルトに追いついたホタルは、ナルトの髪の端を持ち上げる。
「たまには親友同士、裸の付き合いというこうぜ。俺が隅から隅まで洗ってやるよ」
「嫌な言い方は止めてください」
「俺が何のためにお前の家まで来たと思ってんだよ。風呂くらい貸してくれたっていいだろ」
「貴方は僕の邪魔をしに来たのではなかったんですか? 風呂ならお一人でどうぞ」
「つれねーなあ」
 そう言いながらホタルはナルトの髪を指先にくるくると絡めながら弄ぶ。
 それを振り払おうと一歩踏み出すと、ぐいと髪が引っ張られる。
「何をするんですか!」
「髪、痛んでね?」
「まあ……あまりに酷くなったら切るだけですし」
「何言ってんだよ、折角ここまで伸ばしたのに勿体ないだろ」
「別に、放っておいた結果ですから」
「俺はお前の髪、好きだよ。綺麗で」
 真顔で告げるホタルに、ナルトは返す言葉を失う。
 次の瞬間、ホタルはにやりとした笑みを浮かべて髪から手を離した。
「何だ、丸で乙女のような反応だな」
「………」
「痛っ! 蹴らなくってもよくね?」
「貴方は本当に僕をイラつかせる天才ですよね」
「満更でもないくせに」
「お黙りなさい」
 さっさと部屋を出て行くナルトの後追う。腕を肩に回そうとすると、はね除けられた。

「でも何だかんだで付き合ってくれるじゃねーか。俺はお前のそういうところ好きだな」
「僕は貴方のそういうところが嫌いですけどね」
「素直じゃねーなあ」

// [2011.12.18]