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フカンゼン
不完全なものをひたすら組み上げる。不完全は段々と完全に近づいていく。
もしかすると完全だと思っているものも本当は完全ではないのかもしれない。
でも、そんなことを考えるのは他の人に任せておけばいい。ただ完全とされている形まで組み上げる。
そして不完全が完全になった瞬間、それはひどくつまらないものに変わるのだった。
「………」
リツカが僅かに眉をひそめながら書籍から顔を上げると、すぐにこちらを伺う無機質な赤い目と合う。彼の目を無機質と感じるかは人それぞれかもしれないが、少なくともリツカにはそう感じられた。
(……何でかなあ)
彼――ゲノセクトは何故かリツカに懐いているようだった。ラボの地下にいた彼を解放してからというもの、なぜかずっとリツカの後について離れない。
確かに、彼がラボの地下に封じ込められる前、化石から蘇らされた彼に、プロジェクトの一環として指示の元に改造を加えたのはリツカだったが、それが懐かれる理由とも到底思えない。
始めはさほど気に留めていなかったのだが、こうも毎日じっと見つめられては流石に落ち着かなかった。
「ねえ、」
ゲノセクトがぴくりと反応する。
「えーっと……そんなにじっと見られても気になるんだけど」
ゲノセクトはリツカの言葉を理解しているのかいないのか、首を傾げるだけだった。
いや、改造を加えた時にある程度の命令は理解できるように弄ったはずだ。言葉自体は理解しているのにこの反応なのか、あるいは不良品か――
(モノじゃないのに不良品、って言い方もおかしいかな)
ふとそこで気づく。そうだ、彼はあくまで生物だ。
今までも、機械が相手ならどうにでもなるが、生物を相手にすると上手くいかないことの方が多かった。それは、キュレムの制御に失敗したことからもよく分かる。
ゲノセクトは既に“完成”している、いや、完成させたはずと言うべきか。
完成されたものには興味はない。だから、オレナが彼を見つけ出してくるまで、彼の存在など忘れていたくらいだ。
「……マルベック?」
ゲノセクト――マルベックが再びぴくりと反応する。この“マルベック”という名は、リツカがオレナに「呼び名がないのはあんまりだろう」と急かされて適当につけたものだ。
今度は先程の反応とは少し違い、表情こそ変わらないが、どこか嬉しそうにも見えた。
呼べば反応するし、感情もある。しかし、何かが足りないようにも思える。外側が完成されていても中身が完成されていないなら、それは不完全ではないのか、そもそも完成された心とは何なのか。
堂々巡りの問いがリツカの頭を支配する。ただ1つ、確かなことは、リツカはマルベックと名付けたこのゲノセクトに興味があるということだ。
「マルベックって何か呼びづらいね。マルでもいいかな」
マルベックは少し考えるような仕草をした後、はっきりと頷いて見せた。
// [2013.07.12]