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虹色の羽
「うーん……」
 目の前で雑誌に目を落としている彼の髪には、見る角度によって虹色に輝く羽が飾り付けられている。しかも、それは紛れもない本物であり、シオンが身に着けているような形を模しただけのものではない。
 鮮やかな色のそれを眺めながら、シオンは首を傾げた。
「……何?」
 そんなシオンの視線に耐えかねたのか、アケビが雑誌から顔を上げる。対するシオンは目を細めると、深く息を吐いた。
「ちょっと、人の顔を見て溜息を吐くのはあんまりじゃない?」
「いや、溜息も吐きたくなるでしょ。ホント、何でアンタがにじいろのはねを持ってるんだか」
「あげないからね?」
 シオンの視線の先を理解し、アケビが髪に飾られた羽をさっと手で隠す。もちろん、シオンにそれを奪おうという意思などはなく、再び溜息を吐く。
「でもアンタの場合、もらったというよりは拾ったって方が正しいわよね」
「それは些細な問題だよ。どちらにせよ今は僕のものだもの」
「そうなのよねぇ……。もしホウオウ様が、羽がアケビの手に渡ったことを心の底から悔やんでいたら、とっくに取り返しに来ていそうだもの」
「僕としては彼から会いに来てくれるのなら本望だけどね」
 いつもの調子でうっとりと呟くアケビの様子に、シオンは眉をひそめる。最も、これはいつものことなので、あえて突っ込むことはしない。
「アケビが拾ってしまったこともなんだけど、私としては羽が輝きを保っていることも不思議でならないのよね」
「輝き?」
「そう。にじいろのはねは悪しき心の持ち主が手にすると、色を失ってしまうと言われているの」
「ふーん」
 アケビは羽を髪から外すと、不思議そうに、角度によって虹のように様々な色に輝くそれをくるくると回し眺める。
「てことは僕は意外と純粋?」
「それを自分で言うの? まあ、羽の色が失われないってことはそうなるのかしらね……」
 シオンは変わらずどこか腑に落ちないといった風の表情を浮かべている。
 アケビは誰から見ても性格に少々難がある。しかし、羽の輝きが証明しているように、イコール悪しき心を持っているという訳ではないのだろう。むしろ、変に純粋ですらあり、それがどこか浮世離れした雰囲気を醸し出している。
 そんな当の本人はシオンとにじいろのはねを交互に見遣り、首を傾げている。
「シオンもにじいろのはねが欲しいの?」
「当たり前でしょう。私たちにとってホウオウ様は憧れの存在だもの」
「じゃあ、今度僕が彼に会ったら、シオンの分ももらってきてあげるよ」
 突然の申し出にシオンは一瞬、驚きの表情を浮かべたが、すぐに難しい表情に戻った。
「それじゃ駄目よ」
「欲しいんじゃなかったの?」
「この際、アケビがホウオウ様に会えるかどうかは置いておくわ。でも、それじゃ駄目なのよ」
 いつになく真剣な様子のシオンに、アケビも茶化すことはせずに次の言葉を待つ。
「確かに、アケビが羽を拾ったのも、チヨが他の誰かからもらったのも、ある種の縁なんだと思うわ。それはそれで間違いないと思ってる」
「そっか、チヨもホウオウ様から直接もらった訳ではないんだね」
「でも私がアケビに「欲しいからもらってきて」って頼むのは違うと思うのよ。私がホウオウ様を祀る一族である分、余計にね」
「ふーん……よく分からないけど、シオンなりのプライドがあるんだね」
「だから、今はこれで十分よ」
 そう言うと、シオンは髪に飾られた羽飾りに触れる。それは鮮やかな色をしており、角度によって様々な色に輝いて見えるが、本物の輝きには遠く及ばない。
 それでもシオンにとってはとても大切なものだった。
「いつか、ちゃーんとホウオウ様に認められて、にじいろのはねをもらうんだから!」
「そ、頑張ってね」
「何かその言い方、既に持ってる者の余裕って感じで腹立つわね」

 今はまだ偽物の輝きだけれど、いつかそれが本物の輝きになることを信じて。
 それまでは彼の持つ本物の輝きを見て満足しておこう。

// [2017.09.04]